紙魚 (衣魚・雲母虫・紙の虫)     204句

紙魚ならば棲みてもみたき一書あり  能村登四郎

作品
作者
掲載誌
掲載年月
「青踏」の紙魚はばからぬ裏表紙
湯川加寿代
199811
白日に紙魚ゆつくりと反応す
林菊枝
199901
風入れの紙魚の曼茶羅冬旱
神蔵器
風土
199902
過去帳を紙魚も見放す梅雨の底
神蔵器
199905
紙魚もまた美し鴻池出入帳
山尾玉藻
火星
199906
踏絵帳に紙魚走せてみな無苗の名
丸山海道
京鹿子
199907
ホトトギス創刊号紙魚許されず
稲畑廣太郎
ホトトギス
199908
紙魚來ぬをいぶかる和漢三才圖會
中原道夫
銀化
199908
紙魚は今チグリス・ユーフラテス遡行
櫂未知子
銀化
199908
酔歩めく紙魚や飲中八仙歌
林裕子
風土
199909
紙魚の穴恋と埋めて雲笑はす
豊田都峰
京鹿子
199909
正面に衣魚喰ひの大海軍旗揚
神戸林和子
俳句通信
199909
紙魚はしる無言電話のような真昼
田口満代子
海程
199909
紙魚寄せぬ鳥の子紙の智恵子抄
鈴木ゆき子
風土
199910
読み返す移民二世の紙魚の文
関根洋子
風土
199910
本殖えて紙魚の遊びの暇もなし
野路斉子
199911
紙魚走る「ロコモーション」の譜面かな
宮澤さくら
遠嶺
200010
寛政の紙魚の経典なりしかな
伊田和風
円虹
200012
円満の月を紙魚食み涅槃絵図
梅沢春子
200105
紙魚ならば棲みてもみたき一書あり
能村登四郎
200108
見せ消ちに不満の殘る紙魚の皃
中原道夫
銀化
200109
めざとくも紙魚は濡れ場を知つてをり
渡辺知美
銀化
200109
北斎の濤に走れる紙魚の跡
岩崎樹美子
200110
天金の蔵書の紙魚を拂ひけり
中村芳子
円虹
200110
紙魚走る父の書写てふ詠歌帳
岡本明美
俳句通信
200111
仏壇の暗き引出し紙魚光る
勝野薫
ぐろっけ
200111
謡本天女の舞に紙魚走る
三上冨佐子
ぐろっけ
200112
見つかりしがん保険証紙魚が喰ふ
辰巳比呂史
200202
紙魚の貌枕詞の中に老ゆ
中原道夫
銀化
200207
蘊蓄を表はす手だて紙魚になし
山室キミ子
銀化
200207
家移りの紙魚穀象の付いてきし
戸田悠
銀化
200208
紙魚美しき伊藤博文書簡かな
関根洋子
風土
200209
紙魚昇天ボロボロと文字喰みこぼし
にいざ蚯蚓
銀化
200209
見せ消ちに紙魚の誤讀の始まれる
中原道夫
銀化
200210
道のべのべの字は紙魚に食はれをり
土井田晩聖
銀化
200301
抽出の紙魚が四角く走りけり
吉田康子
青山椒
200303
畳のへり泳いで来たる銀の紙魚
吉田康子
青山椒
200303
名声を死後に高めし本に紙魚
鷹羽狩行
200308
刷本の八百八町紙魚はしる
福嶋千代子
200310
形見とて羽織紙魚ごと貰ひ来し
大柳篤子
雲の峰
200310
愛着も捨つべし紺の衣魚背広
山口博通
ぐろっけ
200310
風待の朝鮮使節史書の紙魚
田中敬
200402
繕けば紙魚が観念になつてゐた
直江裕子
京鹿子
200408
家系図の貫禄雲母虫の荒れ
小林呼渓
200408
差し指の差し遅れけり本の紙魚
飯塚ゑ子
火星
200409
紙魚そだつ純文学の外にゐて
山元志津香
八千草
200409
古書に棲む翅なき紙魚を朋とせむ
伊藤白潮
200409
思ひ出は紙魚に喰はせてしまひけり
瀬下るか
200409
紙魚しるき父の古文書蔵ひけり
佐野和子
栴檀
200411
はや跡を「路傍の石」に見せし紙魚
吉弘恭子
あを
200506
紙魚のあとあるが真筆なる遺墨
稲畑汀子
ホトトギス
200507
この遺墨紙魚走らせてならざりし
稲畑汀子
ホトトギス
200507
紙魚走る宮尾登美子の平家の書
松波とよ子
春燈
200507
十年一日の如しや紙魚の銀
宮地れい子
春燈
200508
星絵図の天の川より紙魚こぼる
浜口高子
火星
200509
寄せ書きの祝の字紙魚に食はれけり
吉田明子
200509
納戸あけ紙魚の触発大掃除
小牧弘治
河鹿
200510
天金の古書食む紙魚の奢りかな
山元志津香
八千草
200601
紙の虫贋作見抜く力あり
能村研三
200606
御文庫の紙魚の出入りも許されず
篠原幸子
春燈
200608
紙魚走る村にから傘連判状
神蔵器
風土
200609
紙魚の書や「ローマ帝国興亡史」
和田あきを
風土
200609
手ずれせし青年歌集紙魚走る
奥田弦鬼
風土
200609
文学の志死す紙魚のあと
松岡三夫
200610
俊寛の遺品とふ文紙魚走る
西村しげ子
雨月
200610
ファーブルの著書より紙魚の走り出づ
辰巳比呂史
200611
古書ゆかし紙魚描きし跡辿りつつ
大泉美千代
雨月
200611
紙魚走る古歌なる山河今もあり
大泉美千代
雨月
200611
鉄舟の太き遺墨の紙魚寄せず
高田幸枝
200709
本棚はことばのいづみ紙魚の宿
千田百里
200709
紙魚はしる蘭館絵巻屠殺の図
荒井千佐代
200709
戦災をくぐりし紙魚の書を買ひぬ
次井義泰
200710
青春の推理文庫に紙魚はしる
小林正史
200710
こぬかあめ紙魚食む音と思ふべし
忌瀬戸悠
風土
200710
しろがねを凝らして紙魚の逃げてゆく
長田等
200801
皆傳を盗む途中の紙魚の骸
禰寝瓶史
京鹿子
200809
紙魚避けし頑固な癖字解き曝す
禰寝瓶史
京鹿子
200809
和綴じなる解剖所見雲母虫
岸はじめ
ぐろっけ
200809
墨蹟を食べ残したる雲母虫
近藤喜子
200810
紙魚たちの行きつくところ御衣かな
加藤みき
200811
読めぬ文字巌の如し紙魚の遺句
落合晃
200908
亡父蔵書めくりて紙魚の動かざる
松岡和子
200908
青春の「ともしび歌集」紙魚走る
次井義泰
200909
紙魚に逃げられてしまひし放浪記
岬雪夫
200909
紙魚走る「日本女子修身訓」
小倉陶女
春燈
200909
世話好きの父の日記に紙魚走る
小林正史
200909
青紙魚のいまだ序章に留まれり
丸井巴水
京鹿子
200909
飛べる翅もちて逃げ足使ふ紙魚
丸井巴水
京鹿子
200909
紙魚走る子の絵日記を子に返す
伊藤敦子
末黒野
200910
紙魚走る岩波文庫一つ星
曷川克
遠嶺
200910
夢ひそと描きてゆけり雲母虫
近藤喜子
200910
紙魚走り出藍の夢いつかなし
水野恒彦
200911
紙魚食みし漢籍祖父は恐かりし
丹生をだまき
京鹿子
201008
紙魚走り明治の本の出でにけり
加藤利勝
酸奬
201008
歓声の一際高し紙魚走る
寺田すず江
201009
紙魚走るそれでも紙の本が好き
生田高子
春燈
201009
紙魚の書に埋れし父の背をおもふ
隅田恵子
雨月
201009
古書コピー紙魚の不在を確かめて
北尾章郎
201010
紙魚食むや若きゲーテの恋の章
小田明美
春燈
201010
黄ばみたる永井荷風の本に紙魚
川崎良平
雨月
201010
闇の中音なき道を紙魚走る
鎌倉喜久恵
あを
201010
師の遺句にいつぴきの紙魚死してをり
水野恒彦
201011
鳴呼我ら紙魚よりもつと紙を食ひ
大畑善昭
201011
如何にせむ石鼎の軸紙魚にやられ
大橋敦子
雨月
201104
何とせう鬼城の軸も紙魚まみれ
大橋敦子
雨月
201104
紙魚走る詩の行間を知りつくし
布川直幸
201107
紙魚として生く酔狂も許されよ
竹貫示虹
京鹿子
201107
古日記棄つるに惜しや紙魚走る 三橋玲子 末黒野 201109
わが書架の生態系の端に紙魚 秋葉雅治 201109
遺されし父の聖書に紙魚のあと 荒井千佐代 祝婚歌 201110
紙魚と眠る戸籍謄本筐底に 岡本まち子 馬醉木 201110
紙魚ひとつ追ひかけてをる世界地図 岩下芳子 201110
その紙魚の足速かりてあとずさる 岡田愛子 京鹿子 201110
紙魚棲んでもはやとことん読まぬ本 布川直幸 201206
上書きは父の筆跡紙魚はしる 須山登 201207
紙魚増ゆる謹呈の帯・正誤表 田中貞雄 ろんど 201208
紙魚払ふ古書肆の棚に蕪村の句 林哲夫 ぐろっけ 201208
紙魚残す亡父の日記の大和綴 山口キミコ 九十九島 201209
紙魚喰ひの海軍父の便りかな 北崎展江 くりから 201209
父の文まざと喰ひをり雲母虫 北崎展江 くりから 201209
朱を入れし浄瑠璃本に紙魚走る 塩路隆子 201210
紙魚の跡古アルバムに父笑みて 服部珠子 雨月 201210
紙魚はしる丹波木綿や古箪笥 笹倉さえみ 雨月 201211
紙魚の棲むわが青春の愛読書 大橋伊佐子 末黒野 201211
藤村の色紙の文字に紙魚のあと 大内佐奈枝 万象 201302
地獄絵の狂炎抜けて紙魚走る 柴田近江 201310
若書きの気負ひか紙魚を走らせる 直江裕子 京鹿子 201310
紙魚走る姑の手擦れの古浄瑠璃 古川千鶴 かさね 201310
句集捲れば紙魚に兄めく七回忌 居内真澄 ぐろっけ 201310
天金を割つて出でたる雲母虫 能村研三 201310
大津絵や紙魚の跡さへ面白く 平居澪子 六花 201311
紙魚つぶす指紋に証しきらきらと 原田達夫 201408
新聞に荒波うねる紙魚走る 種田果歩 201409
暫くを紙魚の睡りの頁かな 西田孝 ろんど 201409
三条実美畫扁額の紙魚光る 辻水音 201409
紙魚つれて父の筆跡元気かと 上野紫泉 京鹿子 201409
展示さる芭蕉書簡に紙魚の跡 門伝史会 風土 201409
索引の紙魚索引に紛れけり 吉武千束 太古のこゑ 201411
紙魚の書を積み今日も生きて居り 北川孝子 京鹿子 201411
古文書の墨字を跨ぎ紙魚走る 国包澄子 201412
ほとゝぎす創刊号に紙魚寄せず 稲畑廣太郎 ホトトギス 201507
紙魚纏ふウルガタ訳の聖書かな 稲畑廣太郎 ホトトギス 201507
窮屈をものともせずに紙魚の恋 八木健 八木健俳句集 201509
太平記に紙魚を走らせ夫逝けり 福永幸子 末黒野 201509
父祖の古書蔵書印さけ紙魚の跡 加藤良子 春燈 201509
史料館へ和綴の古書や雲母虫 加藤良子 春燈 201509
紙魚の跡ひやり聖書の裏表紙 三屋英俊 万象 201510
離れずに生きゐし紙魚や師の句集 藤岡紫水 京鹿子 201510
紙魚の棲む古地図の生家あたりかな 千田百里 201510
紙魚伏せ字チャタレー夫人の初版本 柴崎甲武信 春燈 201510
サザエさんのエスプリ愛す雲母虫 卯木堯子 春燈 201510
紙魚のあと辿り読みする手沢本 丹羽武正 京鹿子 201511
雲母虫棚に地球の歩き方 平野みち代 201511
雲母虫棚に地球の歩き方 平野みち代 201511
読み耽る紙魚の世界に深入りし 林昭太郎 201607
旧約の天金に紙魚迷ひをり 久布白文子 馬醉木 201608
紙魚走るちちの聖書のルカの章 荒井千佐代 201608
紙魚迷ふ老後見定め捨つるもの 田嶋洋子 春燈 201609
紙魚喰らふ古地図の海の深さかな 久保久子 春燈 201609
刎ね上がる入鹿の首に紙魚走る 永淵惠子 201609
紙魚走る軍事郵便父のもの 下平しづ子 雨月 201609
裏書きの連署の翳り紙魚走る 鈴鹿呂仁 京鹿子 201609
喰ひも喰ったり紙魚の書の表紙かな 金森教子 雨月 201610
櫻坡子の句のある紙魚のホトトギス 金森教子 雨月 201610
一束の父の文出で紙魚の痕 笠井敦子 201610
文束をひたすら秘せり紙魚の恋 鈴鹿呂仁 京鹿子 201709
紙魚逃げてゆくなり物理問題集 栗原京子 201709
黴と紙魚色の変はりし大福帳 山本無蓋 201710
米穀通帳文筥にねむる紙魚抱きて 川田好子 風土 201710
終戦の記憶の底を紙魚走る 水野恒彦 201711
熊楠の細かき文字に雲母虫 長谷川翠 馬醉木 201808
深海の魚の進化図紙魚はしる 鷺山珀眉 京鹿子 201809
相聞の歌の真中を紙魚走る 吉田葎 201812
浮世絵や色好みせし紙魚のあと 安田優歌 京鹿子 201901
長生きの秘訣は知らず紙魚つぶす 亀田虎童子 201907
紙魚二つ隠して筆を入れにけり 伊藤隆 201908
自分史の昭和史にじむ紙魚の痕 和田照美 京鹿子 201909
曝書して紙魚跡残る和綴本 小林和子 201910
穀象も紙魚も健在母の家 火箱ひろ 201910
紙魚走る小学唱歌の表紙裏 及川照子 末黒野 201910
古日記戦さのあたり紙魚走る 藤岡紫水 京鹿子 201910
まだ起きて紙魚に仲間と慕はれて 奥田筆子 京鹿子 201910
指先で潰してしまふ雲母虫 赤松赤彦 六花 201912
虚子の書と紙魚もろともに移転せし 稲畑廣太郎 ホトトギス 202007
江戸の世の語部紙魚の古地図かな 稲畑廣太郎 ホトトギス 202007
閉ざされし町の図書館紙魚走る 今村千年 末黒野 202008
秘め事のくだりは紙魚に食はれたる 高橋将夫 202009
亡き母の句帳ひらけば紙魚光る 石橋幾代 202101
紙魚の書や征きて還らぬ兄のもの 牛島晃江 202110
仮名好きの紙魚が棲みたる一書かな 能村研三 202207
片付や時の止まりて紙魚の跡 秋川泉 あを 202208
宿帳の翳る紙魚あと草津宿 鈴鹿呂仁 京鹿子 202208
紙魚走る二円不足の返し文 鈴鹿呂仁 京鹿子 202209
文束に眠る声あり紙魚走る 鈴鹿呂仁 京鹿子 202209
雲母虫まだ息のある昭和の書 井尻妙子 京鹿子 202209
高尚な趣味の紙魚なり古今集 高橋将夫 202209
紙魚ならば喰べ尽したきこの一書 鷺山珀眉 京鹿子 202210
戦争は母の紙魚なりほろほろ鳥 西村白杼 京鹿子 202210
書き込みの夫の書籍や紙魚のこゑ 本郷公子 京鹿子 202210
紙魚走る吾が青春の一ぺージ 鈴木順子 京鹿子 202210
若冲の画集に棲むや紙魚二匹 池乗恵美子 末黒野 202211
紙魚走る十一代目の文書箱 伊藤啓泉 202211
紙魚走る白銀のきら師の句集 小田嶋野笛 末黒野 202212

2023年7月26日 作成

「俳誌のsalon」でご紹介した俳句を季語別にまとめました。

「年月」の最初の4桁が西暦あとの2桁が月を表しています。

注意して作成しておりますが文字化け脱字などありましたらお知らせ下さい。

ご希望の季語がございましたら haisi@haisi.com 迄メール下さい。